空気吸うだけ

あんな風にも こんな風にも  生きたくない

CUE/高野寛(1990)

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「CUE」高野寛(1990/東芝EMI


トッドラングレンプロデュースによる高野寛さん1990年の代表作。

 

このアルバムは当時四六時中聴いてました。正に私的名盤。高野さんとの出会いの曲「I.O.N」からはじまり(86年幸宏さん慶一さんのTENTレーベルオーディションでの出場曲。僕は一般審査員でこの曲に一票を入れました^^;)。続く「虹の都へ」はご承知のとおり売れに売れたヒット作で先行したシングルは何度リピートした聴いた事かと。


ただ冒頭2曲でポップにアプローチしたあとはこれまでになく内省的。「やがてふる」「一喜一憂」「DAN DAN」「友達について」「9の時代」…どんどん内面を掘り下げてゆく。そんな中、中盤に入っている「幻」、ラストの「October」、この2曲から微かな光が与えられての心が救われる感。もはやこれ心理学的効果あるなと(笑)


タイトルのCUEは合図の「キュー」でありYMOの「CUE」であり数字の「9」であるという。奇しくも90年代初の作品、9はあまり縁起の良い数字ではないし、この頃はバブルも終盤で世の中に悲壮感が漂いはじめてた。自分もまだ学生でこの先どう生きていこうかとかいろいろ悩ましい時期この内省的な世界観がフィットしてたんだなぁと今になって思ったり。


今回購入したのは昨年HMVの企画でリリースされたアナログ盤。元々このアルバムの音質が「スカッ」としていてそのマスターのままオリジナルに忠実としたレコード化みたい。如何にもトッドラングレンのユートピアスタジオで録った音でこの空気感あってこそという考えも有りだとは思いますが僕は2000年代後半にリマスターされた音源の方が好きかも。劇的に変わったという程ではないけど時代に合わせたトリートメントがなされていて格段と聴きやすい印象(サブスクもそちらの音源で出回ってるみたい)。モノとしてこれを持ち音源は2000年代後半のリマスターで聴くのが最良か。


という事でこれはやはりメーカー主導で進められた時代に沿ったアナログ化なのかも。高野さん自身あまり大々的な宣伝もしていないし。そう言えば2010年頃のライヴで2nd「RING」が再発される事に触れ「今度出る再発はリマスターされてないんで持ってる人は別に買わなくていいです!どうしてそういう事するかなぁEMIは。別にお金要らないんでやらせてくれればいいのに」とボソッと言ったMCが印象に残っています(笑)

 

 
 
 
 
 
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庭と音楽と夕暮れ2022@佐倉市旧堀田邸さくら庭園

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楽家・宮内優里さんが千葉県佐倉市にある旧堀田邸(さくら庭園)で開催する「庭と音楽と夕暮れ」。2010年代半ばにはじまり何時からか恒例化、近年は小島ケイタニーラブさんとの共演が恒例に。広い芝生に椅子やレジャーシート、本を読んだりスマホ弄ったりウトウト昼寝したり。誰も演者の前を陣取ったりはしない。広い庭園にばらけて思い思いに時を過ごす。おいしいドリンクやフードの出店もある。正しくここは天国状態。


宮内さんも当初は既存の曲を演奏する普通のライヴスタイルだったけど昨年から1時間1曲のインプロビゼーションと化したBGM演奏スタイルに。更にその場で自然発生した音の数々(子どもの遊ぶ声、傍を走る電車の音など)や傾きはじめた夕陽の後光、日暮れ時の涼しい風など、環境さえも取り入れた奇跡的なサウンドスケープにアップデート。更に今年は直前までの雨の予報が開催時間中だけは快晴という奇跡。


小島ケイタニーラブさんの弾き語りスタイルも当初宮内さんの音楽とは対称的かな?と思ったけど今はこの二組が至って自然に思えるし、インプロスタイルが中心となった宮内さんの音楽に小島さんが入るとポップミュージックに接近してた頃の宮内さんが少し戻ってきたような感じもする。来年も5月の青空の下この庭園でこの二組の音楽を聴きながら至上のチルアウトを体験したいものです。

 
 
 
 
 
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夜はそのまなざしの先に流れる/空気公団(2012)

 
 
 
 
 
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「夜はそのまなざしの先に流れる」空気公団(2012/fuwari studio/JETSET)

空気公団の2012年作。完成度も評価も高く2019年当時の最新作「僕の心に街ができて」と共にアナログ化に選ばれた作品。未開封品が10000円以上の高値での取引が見受けられるなかHMVのオンラインで3000円という良心的な中古品を発見し即購入。

ダンスパフォーマンスを交えて行われた公演のライヴ録音を基にスタジオで音を加えて完成させた実験的作風。10曲中3曲がインストとサントラ的であったり、これがアルバム全体の物語性を上手に繋げてる。時期的に震災の事を反映してるかどうかは定かじゃないけど何時になく重厚な楽曲の数々。最後はふっと軽い感じで終わるけどそれさえもメッセージ性は強くて。

ここからは超個人的主観な話だけれど、社会的/環境的に大きな出来事があったあと、それを煽る訳ではなく、といって慰める訳でもなく、ただ暗闇に身を委ね、心を休ませてくれる音楽、といってもバラードアルバムではない、ベルベッドな質感のポップミュージック。僕はそれを「身を委ね系」または「寄り添い系」と呼んでいて、主にこの3作がそう。

ムーンライダーズの夜」ムーンライダーズ(1995)

「夜はそのまなざしの先に流れる」空気公団(2012)

「crepuscular」KIRINJI(2021)

奇しくも上から阪神淡路大震災/オウム騒動、東日本大震災、そしてコロナ禍と。どれも当年か翌年の発売。直接的な事は言ったり言わなかったりだけれど、どれも騒々しい時代に冷静さを持った愛おしい作品。この3作品は昨今のコロナ禍においてもよく聴いた。この中で現時点アナログで聴ける唯一の作品。

ようやく針を落として聴いてみる。これアナログ用にマスタリングし直してるのかな?音圧がどうこうと言うより霞が取り払われたかのようにクリアーで立体的。やはりB面3曲目「夜と明日のレコード」が大きな山だ。絶賛されて然るべし。あらためてすごい作品。
 

youtu.be

これは公開レコーディングの少し前に西麻布の新世界で行われたゲネプロ公演。仕事を終え横浜から駆けつけ開演ギリギリの到着にも関わらず最前列に1席空きがありそこに着席。なのですごく目立って映りこんでる。巨漢だし変な帽子被ってるのですぐわかるかと。

小坂忠さんのこと

 
 
 
 
 
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4月29日、夜、小田原、DJパーティ、雨の日に心地良い音楽流れる店内、今日はただの客。主賓の方が気を利かせ今度はたきたさんもと言ってくれて「いえいえ、こんなよいムードの中僕が入ると小坂忠とかかけて(場を)しらけちまいますから」と。もちろんこれは場を白けさせると小坂忠「しらけちまうぜ」を掛けた誰にも伝わらない親父ギャグだったのだけれど。数分後会話が途切れインスタのアプリを開いて冒頭松本隆さんがアップした忠さんの昨年秋武道館におけるスマイルショット。忠さんが亡くなったらしいと。数分前親父ギャグのネタに使わせてもらったばかりの後にこれは悪い冗談なのかと。

 

忠さんを最初に意識したのは矢野顕子グラノーラツアーで「ほうろう」がセットに入っていたからじゃないかと。グッドイーブニングトウキョウで聴いてだから88年。その後89-90年頃幸宏さんが自身のFM番組でよく忠さんの曲をよく流し、その後幸宏さん自身も91年のツアーで「ありがとう」「機関車」をカバー、後にライヴ盤「A NIGHT IN THE NEXTLIFE」はどんだけ再生した事か。更にその数年後渋谷系の盛り上がりの中で「ほうろう」をちゃんと聴いてみた、という感じだったかな。

 

小坂忠さん、その頃はキリスト教方面の音楽でご活躍という事で半ば伝説化していたけれどちょっとだけポップフィールドに戻ってきてくれた。ミレニアムの2000年、細野晴臣鈴木茂林立夫が結成したティン・パンのアルバムとライヴにゲストで参加。特にNHKホール公演で吉田美奈子と一緒に歌った「機関車」、サビに差し掛かった瞬間背筋がゾクゾクした事はたぶん一生忘れない。忠さんと美奈子に挟まれた大貫妙子が捌けずにただ下を向きずっと聴いていたのもすごく印象に残ってる。

 

ティン・パンは記念的参加かな?と思ってたら翌年細野晴臣プロデュース作「People」をリリースしポップフィールドに完全復帰。アルバムが出る少し前の9月末、新宿にあった日清パワーステーションで小さなショウケースを観た。正直忠さんより細野さんや茂のプレイ目当てだった。そこでの忠さんがこんな事を言った「25年ぶりくらいにアルバムを出すんけど、僕はこの25年歌を歌ってこなかった訳ではないんです。皆さんの知らないところで歌はずっと歌っていたんですよ」と。この時の忠さんのやさしい語り口、シンガーであり牧師さんであり、大袈裟かもだけど自分に足りてなかった父性みたいなもの(?)をも感じた。ゴスペルだろうとポップミュージックであろうとこの人の音楽をこれからも聴いていこうと。残念だったのはこの3ヶ月後新宿厚生年金会館で開催のレコ発ライヴに行けなかった事。急遽夜間作業の仕事が入り泣く泣く売ってしまったチケットは前から3列目だったのに。

 

その後も頻繁ではないけれどいろんなところでライヴ観た。Dr.Kyonの指導の下幸宏&小原のリズムで踊らされたビルボード東京、佐野史郎さんゲストでマニアックなトークも弾んだ横浜のサムズアップ、場所は忘れたけど長髪のズラを被らされ昔の歌を歌った事も(笑)、あと夢の島公園のフェスで観た事とかね。忠さんの牧師さんらしからぬ自由奔放ぷりも楽しく今思うとポップフィールドに復帰したPeopleの頃はそれなりに緊張してたのかな?と思ったり、それくらい自由奔放(笑)

 

「ほうろう 40th Anniversary Package」小坂忠(2015/Sony Music Direct

 

75年の名盤、2009年ボックス発売時に発見されたマルチテープからのリマスター音源とそのマスターを新たにミックス、ヴォーカルを録り直した「HORO 2010」とのカップリング盤。両方別々に持っていたので未購入のままだったけどここに来て欲しくなり購入。同じもの何枚持ってるんだと(笑)。オリジナルが名盤である事に全く異議はないけどここでは是非35年後のほうろう「HORO 2010」を聴いていただきたく。ゴスペルを経由しより深みあるソウルフルな歌声で歌われる「ほうろう」が2000年代から聴き始めた自分にとっては至って自然というか。これは野暮な解説は不要。もう聴いてもらえば。各種サブスクでも聴けます。

 

忠さんの訃報から暇さえあれば忠さんの事ばかり考えてる日々。個人的には大村憲司かしぶち哲郎に継ぐ大きな衝撃だけれど意外と悲しくはない。各方面から忠さんのお人柄が聞けたり考えてるのがたのしいくらい。(余談だけれど大滝さん、トノバン(加藤和彦さん)、清志郎など、もちろんショックだったけどライヴを頻繁に観ていた憲司さんやかしぶちさんそして忠さんはやはり身近な出来事に感じたです、はい)

 

近年の闘病は傍からも大変に見えてたし73歳はまだちょっと早いかな?だけど、あらゆる運命を受け入れ、往く道を選び、忠さんだからこそ歩めた唯一無二の生涯であったなと。忠さんは亡くなる半年前松本隆さんの50周年に手術直後の体をおして歌い切ったと聞いてる。友のために命を捧げ守護聖人となった殉教者が居た事を考えるとすごく忠さんらしい最期だったのかなと思ったり。(※守護聖人カトリック的思考でプロテスタントの牧師さんである忠さんに例えるのは何とも恐縮ですが「そうか、そうか、ありがとう」ときっと笑ってくださると信じて)